○映画系コラム02 

夕凪の街 桜の国(2007年製作)

 

こうの史代原作の同名の漫画「夕凪の街」と単行本にて追加された「桜の国」を実写化。
原作は文化庁メディア芸術祭マンガ部門で大賞を始め、数々のメディアで絶賛された。

「はだしのゲン」などに代表されるいわゆる「原爆マンガ」であるものの、
ピカによる被爆や精神的後遺症が残りながらも、1958年のスラム街の中でけなげで普通に生きる平野皆実と
平成19年夏に黙って出かけていく父親の後をつけて、広島へ家族のルーツを見つける石川七波の物語。

原作は未見ですが、ネットでの評判や完成度はよく見ていましたので
早い段階で映画館へ足を運びました。



夕凪の街

麻生久美子さんが演じた皆実も、素朴さが残りつつ伸びやかにスラム街を生き抜いているように見えるが
時折ピカにより亡くなってしまった妹の翠の声が聞こえたり、瓦礫の中の街並がフラッシュバックしたり
自分が生き残った事に罪悪感を感じたりと、戦後13年経った中でも皆実の中では今もあの時のままであった。

惹かれていく打越に対しても、「自分が幸せになってはいけない」と思い打越の好意を拒んだり
とうとうピカの事について語り出し進展するかと思いきや、皆実の病状が悪化して
疎開先から帰郷した弟の旭と打越が居る前で息を引き取ってしまう。

時が経ち、旭が広島へ在住する時に京花と出逢う。
社会人となった旭は京花を人生のパートナーと選ぼうとするも、
母のフジミが「被爆者の娘をもらうのかい?」と警告を促す。

被爆者であるフジミ自体も差別を受けたのか、そういう悲劇を息子にも繰り替えしたく無い気持ちの現れでしょう。
それでもなお33歳になった旭は京花にプロポーズ。
母のフジミと一緒に新しい家庭を築いたところで、「夕凪の街」が幕を閉じる。





桜の国 〜戦後はまだ終わっていない〜

 

よくTVのドキュメントで耳にしますが、「桜の国」を観ると直に感じます。

舞台は平成19年夏、旭の娘・七波はどこにでもいそうな28歳の女性(男性には縁が無さそうだが)。
夜に突如旅立った父親を尾行するが、旧友の東子と出会う。
そして東子と共に尾行した先が広島。

旭がかつてお世話になった方々と対面し、平野家へ墓参りした際に七波は墓石に皆実と翠の名前を見つける。
そして打越と対面を果たし、あの頃のように川原へ石を投げ合ったりもした。

七波が家族のルーツを探し当てた時に、かつての出来事がフラッシュバックしていく。
小学校時代に母である京花が血を吐きながら死去、祖母のフジミも弟の凪生の看病の際に倒れ、
ついには戦後間も無い頃までフラッシュバックしながら息絶えてしまう。
その病気が原爆症のものなのか今まで語られる事も無く、旭はずっと口を閉ざしていた。

ピカによる被害は第1世代だけでなく、第2世代の京花や息子の凪生が持病の喘息を持っている事などから
3世代にも渡って後遺症が残っているのではないか?という現実を目の当たりにした。
(凪生が持病の喘息に関しては原爆症からとの因果関係は証明されていませんが)

もちろん健康面だけでは無く、精神面でも直接経験していない七波や被爆者の血を引く凪生との交際に
親から反対された東子も間接的に深い傷になっているなど、戦後はまだ終わったとは全く言えません。

たまたま終戦記念日に観る事が出来ましたが、かえって戦後について深く考える機会が出来ました。


唯一の被爆国である日本、もう一度私達自信が見つめ直す時期に来ているのかもしれません。